桜という花は、どうやら人を振り回す才能があるらしい。
「まだ咲かないのか」と思っていたら、ある朝いきなり満開になっている。
こちらはまだ心の準備も、上着の準備もできていないというのに、桜だけはやる気満々である。
どうやら桜は、人間の都合という概念を持っていない。
しかも満開になったと思ったら、今度はすぐ散る。
昨日まで堂々と咲いていたくせに、今日はもう花びらをばらまいて帰り支度だ。
まるで「仕事は終わりましたので失礼します」と、定時で帰る職人のような潔さである。
見習いたいが、こちらはなかなかそうもいかない。
面白いことに、桜は冬の寒さをしっかり耐えたあとでないと咲かないらしい。
つまり、楽をした桜は咲けないのである。
なんとも厳しい世界だ。
手のひらに落ちてきた花びらを見ながら思う。
焦っても咲かないし、無理しても続かない。
だったらせめて、咲いたふりだけでもしておこう。
遠目には、意外と満開に見えるかもしれないのだから。
